岸田文雄首相は22日、首相官邸で「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」の報告書を座長の佐々江賢一郎元外務次官から受け取った。報告書は防衛費の増額や相手のミサイル発射拠点などをたたく「反撃能力」の保有を求めた。日本の安全保障政策の抜本的な転換を促す内容となった。
首相は「与党としっかり調整しながら政府として議論を進めていきたい」と述べた。佐々江氏は「防衛力の抜本的な強化が何よりも重要だが、国力としての総合的な防衛力が重要で大いに推進してほしい」と伝えた。
首相への報告書の手交を受け、政府・与党は同日に政策懇談会を開き、防衛力の抜本的な強化について協議した。報告書を踏まえ、年末に向けて国家安保戦略など防衛3文書の改定作業や2023年度の予算編成や税制改正での財源論議を急ぐ。
報告書は必要な財源について「幅広い税目による負担が必要」としたうえで国民から「理解を得る努力」を要求した。まずは歳出改革による財源の捻出を優先し、足りない分を税負担でまかなう姿勢も強調した。
念頭には法人税や所得税などがある。原案では「財源の一つ」として法人税を例示したが報告書では明示しなかった。「企業の努力に水を差すことのないよう議論を深めていく」と言及した。
戦後の軽武装・経済重視の路線からカジを切り、自立的な防衛力の強化に踏み出す機会とする。報告書は「自分の国は自分たちで守るとの当たり前の考えを明確にすることは同盟国や同志国からの信頼を揺るぎないものにするために不可欠」と提起した。
具体的な脅威や将来の戦い方を見据えた防衛力強化と予算確保を提唱したのも特徴だ。なかでも反撃能力の保有は中国や北朝鮮などの核・ミサイル技術の進展によって日本周辺の安保環境が厳しさを増していることが背景にある。
迎撃だけで対処するのは難しく、日本を攻撃すれば反撃を受けると相手に思わせる能力を持たなければ抑止力が維持できなくなるとの懸念を映す。
報告書は反撃能力の発動について「政治レベルの関与のあり方についての議論が必要」と言明した。反撃能力の手段として5年以内のできるだけ早期に十分な数の長射程ミサイルを配備するよう主張した。
敵の射程圏外からでも攻撃できる「スタンド・オフ・ミサイル」の拡充に向け、国産の改良だけでなく海外製の導入も指摘した。防衛省は米国製の巡航ミサイル「トマホーク」の購入を検討している。
防衛費増額を巡っては、有識者会議は各府省の縦割りを排して政府全体で防衛力を高める方策を練った。各府省に予算の特別枠として「総合的な防衛体制の強化に資する経費」を設け、横断的に関連予算を確保できる仕組みを提案した。
日本の防衛費はこれまで防衛省が所管する予算を指してきた。新たな枠組みでは安保関連予算を幅広く捉え、①公共インフラの活用②科学技術の研究開発③サイバー④安保面での国際協力――の4項目も総合防衛費の対象に挙げた。
有事に民間の港湾・空港を活用したり、安保分野で民生技術開発を生かしたりできるようにし、防衛省などのニーズを踏まえた対応を可能とする。
北大西洋条約機構(NATO)は米欧30カ国の加盟国に国防費を国内総生産(GDP)比2%以上にするよう求める。自民党はこの水準を念頭に防衛費を増やすよう唱える。
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