およそ5万2000人が死亡した、トルコ南部で発生した大地震から6日で1か月となります。
トルコでは大きな被害を受けた建物が20万棟にのぼり、多くの人がテントでの避難生活を続けていて、住宅や暮らしの再建に向けた支援の継続が求められています。
先月6日、トルコ南部で起きたマグニチュード7.8の地震とその後の地震では、トルコで4万5968人、隣国のシリアで5914人、合わせて5万1882人の死亡が確認されています。
トルコ政府によりますと、国内で倒壊などの大きな被害を受けた建物は20万棟にのぼり、人口の16%に相当する1400万人が住まいを失うなどの影響を受けています。
テントでの避難生活を余儀なくされている人は144万人に上るとされ、被害が広い範囲に及んでいることから、被災地では水や食料など生活に必要な支援が行き届いていないという声も上がっています。
さらに被害が大きかった南部カフラマンマラシュでは、今も電気や水道がなくテントの中で地面にマットを敷いただけの避難生活を続けている人たちもいて、家族4人で避難している男性は「寝られる場所や、食料や飲み水、トイレすらなく、政府はここに人が避難していることを把握していないのではないか」と訴えていました。
UNDP=国連開発計画は、トルコだけで1億トンから2億トン余りのがれきが発生したと推定していて、大量のがれきの撤去も大きな課題になっています。
一方シリアでは、内戦でアサド政権と対立してきた反政府勢力が支配する北西部で大きな被害が出たものの、首都ダマスカスに送られた各国からの支援物資が北西部には十分届いていないとも指摘され、厳しい状況が続いています。
地震の発生から1か月がたっても被災地の混乱は続いていて、継続的な支援が求められています。
このうち震源に近く甚大な被害に見舞われた南部のカフラマンマラシュでは人口流出への懸念が高まっています。
“英雄”マラシュの懸念とは
第1次世界大戦後、連合国側の支配に対する解放戦争が始まった場所の一つで現在の地名は、もともとのマラシュという地名に「英雄」を意味する「カフラマン」が組み合わさっています。
地震の前はおよそ60万人が暮らし、農業や繊維業が盛んな都市でしたが、大地震を受けて数多くの建物が倒壊する甚大な被害がでました。
大地震から1か月を迎える前の今月3日には、イスラム教の金曜日の集団礼拝が行われていました。
集まった人に話を聞くと、礼拝に訪れた人の数は地震の前の3割にとどまり、多くの人が人口の流出への不安を語りました。
このうち、高齢の男性は「避難先から帰ってくる人もいるとは思いますが、おそらく半数は戻ってこないと思います。地震の前は楽しみにあふれた街でしたが、いまはゴーストタウンのようで早く元どおりになってほしいです」と話していました。
また、別の男性は「街を離れようとする人たちに思いとどまるよう説得しようとしましたが、多くの人が再び同じような惨事が起こるのではないかと恐れています。ただ、私たちはこれまでも多くの戦争や困難を乗り越え、だからこそ『英雄マラシュ』と呼ばれるのです。早く普通の生活を取り戻したいと思います」と話していました。
市内では、被害を受けた自宅のアパートから家財を取り出す人たちの姿が多く見られ、なかには400キロ離れた町に引っ越すという人もいました。
経済再建にも影
人口流出への懸念は、経済の再建にも大きな影を落としています。
カフラマンマラシュに拠点を置く地域最大の繊維会社は、世界的な家具メーカーや、ファッションブランドなどに生地を納入していますが、地震で工場が倒壊したり、取り壊しが必要になったりしました。
さらに、事業の再建にあたって課題となっているのが、従業員の確保です。
地震の前は1万人の従業員がいましたが、いまはおよそ半数が市外に避難していて、なかには、カフラマンマラシュには戻らないと会社に伝えている人もいるということです。
繊維会社のハリット・ギュムシェゼネラル・マネージャーは「事業の再建を進めようとしていますが、一番の課題は工場の従業員の確保です。予想するのは難しいですが、再建には1年以上かかると思います」と話していました。
再建決意する若者も
カフラマンマラシュで人口流出への懸念が高まるなか、なかには、大切な友人を失ったこともあり、将来は地元の復興に貢献したいと決意する若者もいました。
地震で自宅のアパートは壁などが倒壊して住むことができなくなったうえ、両親が営んでいた店が大きな被害を受け、家族は収入を失いました。
さらに、アシェクさんは今回の地震で幼なじみの親友イスマイルさんを失いました。
外国の大学に留学していたイスマイルさんは休暇を利用してカフラマンマラシュに帰省していて、地震の4日前にはアシェクさんと会って、互いに再会を喜びました。
しかし、イスマイルさんがカフラマンマラシュを離れる予定だった2月6日、大地震が襲い、イスマイルさんは帰らぬ人となってしまいました。
アシェクさんのスマートフォンには、最後に会ったときに撮影したイスマイルさんの笑顔の写真が残っていました。
大切な親友を奪った今回の地震のあと、アシェクさんが決意したことがあります。
将来、建築士になってカフラマンマラシュの再建に貢献することです。
アシェクさんは大学受験に向けて、再開した学習塾に通い始めました。
学習塾は建物に大きな被害はなかったものの、安全性を考慮し、外に設営したテントのなかに机やいすを置いて授業を再開しました。
心の傷も癒えないうちに、学習塾に再び通い出した理由をアシェクさんに尋ねると「家も住めなくなり、家族の仕事もなくなり、すべてを失ってしまいました。塾で勉強することだけが、将来への希望なのです」と話してくれました。
今回の地震では、耐震基準が守られていない違法な建築や改築が被害を拡大させたとも指摘されていて、アシェクさんが建築士を目指す理由は悲劇を繰り返したくないという思いもあるといいます。
アシェクさんは「この地震で、街の多くが壊れてしまいました。この街が大好きな僕たちのような子どもたちにしか、街を発展させることはできないのだと思います」と「英雄」=カフラマンの1人として、故郷の復興に向けた決意を語っていました。
内戦続くシリア 支援物資の輸送に影響など厳しい状況
シリア保健省とOCHA=国連人道問題調整事務所によりますと、シリア国内ではこれまでに少なくとも5900人以上が死亡したほか1万人以上がけがをしました。
また、OCHAなどによりますと、シリア全土で10万5000世帯以上が避難しているほか、およそ130万人が緊急の食料支援を受けたということです。
このうち、被害が大きかった北西部はアサド政権と対立する反政府勢力の支配下にあり、人道支援のルートが地震前の1つから3つに増えましたが、依然として支援の拡大が課題となっています。
一方、首都ダマスカスには、日本も含め各国からの支援物資が到着していますが、アサド政権側からの物資の輸送は内戦の対立による影響で北西部の被災地には十分に届いていないとも指摘されています。
また、ユニセフ=国連児童基金のシリア事務所によりますと1600校以上の学校が地震の被害を受け、そのうちおよそ400校は再開のめどがたっていないということです。
ユニセフでは、被災した子どもたちの心のケアに加え、もともと内戦の影響で学校に通えていない子どもも多かったことから教育機会の確保が長期的な課題だとしています。
ユニセフ・シリア事務所の根本巳欧 副代表は「いくつもの危機を乗り越えてきたシリアの子どもたちのことを忘れないでほしい。一刻も早く、子どもらしく遊んだり、学んだりできる環境を整えることが一番の優先課題だ」と述べ、支援の継続を訴えています。
シリアの被害額 推計51億ドル GDPの約10% 世界銀行
これは、シリアのGDP=国内総生産のおよそ10%にあたるとしています。
被害額の内訳は、住宅が最も大きく25億ドルとほぼ半分を占めるほか、医療機関や学校など住宅以外の施設が17億ドル、交通や電力、水道などのインフラが9億ドルにのぼるとしています。
また、地域別では、北部のアレッポが被害額全体の45%、北西部のイドリブが37%を占めるなどとしています。
世界銀行は、企業活動への影響や仮設住宅の整備などの費用については詳しい調査が必要だとしていて、「被害はシリアの人々が過去何年にもわたって耐えてきた破壊や苦しみ、苦難をさらに深めるものだ」とコメントしています。
世界銀行は先月、トルコの物理的な被害額については推計で342億ドルにのぼると明らかにしていますが、トルコとシリアいずれも、復旧・復興の費用を含めるとさらに被害額は膨らむおそれがあります。
からの記事と詳細 ( トルコ・シリア大地震 発生1か月 混乱続き 継続的な支援が必要 - nhk.or.jp )
https://ift.tt/rPgBte1
No comments:
Post a Comment