［ソウル １０日 ロイター］ - 韓国と北朝鮮による経済協力事業、開城（ケソン）工業団地で衣服工場を再開したいというパク・ヨンマンさんの望みは、韓国大統領選で保守系最大野党「国民の力」の尹錫悦（ユン・ソクヨル）氏が勝利したことで「夢のまた夢」になったようだ。
開城工業団地ではかつて韓国企業１２４社ほどが工場を構え、北朝鮮の従業員約５万５０００人を雇用していた。しかし北朝鮮によるロケット発射や核実験を受け、団地は２０１６年初頭に閉鎖された。
北朝鮮による頻繁な敵対的行為と、尹氏の北朝鮮に対する強硬姿勢を踏まえれば、多くの南北対話のための努力は当面、棚上げになる見通しだ。開城工業団地の再開はそのひとつに数えられる。
「奇跡を期待したいが、尹政権下で南北関係は悪化の一途をたどるのではないか。挑発的な行為や応酬に発展する恐れさえある」とパクさん。自身の衣料企業の生産量は、開城工業団地で製造していた当時の６分の１に減ったという。
文在寅（ムン・ジェイン）大統領は北朝鮮との融和路線を打ち出したが、任期中にこれといった進展は得られなかった。尹氏の勝利は、この路線に終止符を打つ可能性がある。
尹氏は強硬な軍事戦略を約束し、北朝鮮の極超音速ミサイル発射が差し迫った場合、対抗する唯一の手段は先制打撃かもしれない、と発言している。
尹氏のチームは北朝鮮との交渉再開を模索するとしつつも、北朝鮮が非核化の具体的行動を採ることを条件に上げている。米国との関係強化を含む、軍事抑止力の向上も掲げる。
尹氏は１０日、大統領選勝利後の最初の演説で「北朝鮮の違法かつ不当な行為に対しては、基本原理に則って断固とした対応を採るが、南北対話の門戸は常に開けておく」と述べた。
アナリストや尹氏の選挙戦チームによると、北朝鮮は、だれが大統領に選ばれようと、少なくとも短期的には対立を激化させる構えだったようだ。
北朝鮮は１月、過去最多数のミサイルを発射し、核爆弾と大陸間弾道ミサイル（ＩＣＢＭ）の実験再開を示唆している。偵察衛星の打ち上げも準備している様子だ。
ライデン大学（オランダ）の朝鮮半島専門家、クリストファー・グリーン氏は「北朝鮮は間もなく緊張を高めると予想する。尹氏が南北対話を巡るリップサービスさえできないほどに、緊張が高まるだろう」と語った。
米国は条件を付けない北朝鮮との対話に前向きな姿勢を示している。しかし北朝鮮側は、米韓が軍事演習や軍備増強、制裁などの「敵対政策」を続けながら、そうした申し出をするのは不誠実だとはねつけている。
梨花女子大学（ソウル）で北朝鮮研究に携わるパク・ウォンゴン教授は、北朝鮮は核保有国として認められたい、との望みを達成するために突き進んでいると指摘。「今のところ、北朝鮮は核合意を望んでいない」と述べた。
＜届かぬ南北融和＞
文大統領は就任直後に朝鮮戦争以来で最悪の緊張悪化に直面。その後、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記は突然、核戦力が「完成した」と宣言して外交攻勢を開始し、史上初の米朝首脳会談につながった。
しかしハノイで開かれた２回目の金氏とトランプ前米大統領との会談が物別れに終わると、文大統領の南北融和維持への期待は崩れ、南北協力に望みをつないでいた多くの人々の夢は断たれた。
北朝鮮は次第に、米国に経済制裁の緩和を説得できない文氏への不満を募らせるようになる。
「私たちはやり直しだ。歴史の本にある開城の章を閉じなければならない」。パクさんは、かつて開城工業団地にあった自社工場の写真が飾られた空っぽのオフィスで語る。
韓国は今、住宅価格の高騰、格差拡大、高学歴の若者の就職難など内政問題が山積している。尹氏の政策課題の中で、北朝鮮との対話は優先度が高くなさそうだ。
米シンクタンク、ＲＡＮＤコーポレーションのスー・キム氏は「韓国国民に南北経済プロジェクトを支持するかどうか聞いてみるべきだ。北朝鮮よりも韓国に大きな経済的負担がのしかかりそうなプロジェクトを」と語った。
（Ju-min Park記者）
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