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Saturday, July 10, 2021

なぜ若者はワクチン接種に消極的なのか 本当の理由と背景 - ITmedia

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日沖博道氏のプロフィール:

 パスファインダーズ社長。30年にわたる戦略・業務コンサルティングの経験と実績を基に、新規事業・新市場進出を中心とした戦略策定と、「空回りしない」業務改革を支援。日本ユニシス、アーサー・D・リトル等出身。一橋大学経済学部、テキサス大学オースティン校経営大学院卒。日本BPM協会アドバイザー。


 緊急事態宣言と解除、感染者数の縮小と再拡大を繰り返すニッポン。この悪夢を断つ切り札はやはりワクチンだと期待されている。しかしそれにも大きなハードルが待っている。若い世代ほどワクチン接種に消極的なのだ。

 例えば筑波大学が2021年4月に20〜40代を中心に行った新型コロナ用ワクチンの接種希望についての調査では、「絶対」または「多分」接種するとしたのは4割強に過ぎず、「周りの様子を見てから判断」が一番多くて38.4%、「多分」「絶対」接種しないと答えた人が19%にも上っている。

 リーディングテック(株)が今年2月に実施した『コロナワクチンに関する意識調査』では、「希望する」は63%、「希望しない」は37%という結果が出ている。年齢が若いほどワクチン接種に消極的なのは明らかだ。

 同様に、(株)アーキテクトが今6月に意識調査を実施した結果でも同様で、20代だと「接種するかどうかで悩んでいる」27.0%、「接種しない」17.0%と、4割強が消極的だ。

 他にもいくつかのアンケート調査が実施されており、実施タイミングと質問の仕方でそれぞれ結果の数値は異なるが、「若い世代ほどワクチン接種に消極的」という傾向は一致しているようだ。それはなぜなのだろう。まずは彼らが挙げる理由を精査してみよう。

 上記のリーディングテックの意識調査ではその理由は、「副作用が怖い」45.0%、「予防効果が疑わしい」23.8%、「体内に異物を入れたくない」9.2%、「注射が苦手」7.5%、「接種場所での感染リスク」7.2%、「めんどくさい」3.4%と続く。率直に答えてもらっているようだ。

 アーキテクトの意識調査のほうでは、消極的な理由の第一は「副反応が心配」41.3%の後に、「ワクチンの安全性に疑問を感じる」19.0%、「十分な検査ができていない気がする」11.2%、「ワクチンの効果に疑問を感じる」2.8%と続き、「接種会場に行くのが面倒」1.7%、「接種場所での感染リスクがある」0.6%、「予約手続きが面倒」1.1%、「注射が嫌いなので」2.2%、「自分は感染しないと思う」1.1%という具合だ(随分と細かく分けているが、カブる項目があるようにも思える)。

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 どうやら2大理由は「副反応」と「ワクチンの安全性/効果」のようだ。ではその理由は客観的に妥当なものなのだろうか。

 「副反応が心配/怖い」というのは分からないでもない。稀だがアナフィラキシーショック症状が生じることがある。しかしその確率は極端に低く、ファイザー社製ワクチンの場合で(疑い事例を含めても)23,245,041回接種中1,407件、すなわち0.006%だ。モデルナ社製ワクチンでも440,278回接種中4件しかない、すなわち0.0009%だ(いずれも厚労省ホームページより)。過去に何らかのアナフィラキシーショックを経験した人はともかく、そうでない人が心配する数字ではない(それより交通事故に遭う確率のほうが2〜3桁高い)。

 それ以外の副反応についてはどうか。ワクチン接種の報道にはほぼ毎度「〇〇人に発熱などの副反応が出た」などと付け加わっていたので、まるで今回のワクチンの副反応に関しては相当深刻なもののように映る。

 しかし具体的な副反応の内容を調べると「だるくなる」「熱が出る」「注射した部分に痛み」などのさまざまな症状が挙げられているが、いずれも深刻なものではなく、しかも大抵翌日には治っている。体が抗体を作る際に発熱することが多いのだが、ウイルスに感染したのではないため害はない。いったん抗体を作ってしまえばこれらの副反応は終息する。よほど熱を早くひかせたい人は市販の解熱剤を使用して問題ない。

 ちなみに1度目よりも2度目の接種によってより多くの抗体が作られるので、2度目の接種の後のほうが副反応は強めだ。1度目の接種で多少重い副反応が出るケースが時にあるが、そのうち何割かは「実は過去に感染していた」という可能性があると疑える。

 一方、この程度の副反応を恐れてワクチンを打たずに万一感染した場合にはこんな生易しいものでは済まない。若者は症状が軽いとか無症状であると信じている人が未だに多いが、日本でも流行し始めたインド株にかかれば、若者も結構発症するし重症化もする。実際、英国での急激な感染の再拡大はまさに若者が「流行の中心」だそうだ。

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 もう一つの主な理由である「ワクチンの安全性/効果に対する不信感」も予想されたものだ。特にファイザー製とモデルナ製は従来のワクチンに比べて圧倒的に短期間で開発され、海外でも日本でも通常より格段に速く承認されている。「こんなに速く開発・承認されているのはどこかで手抜きや見逃しが行われているに違いない」と、陰謀説好きな連中ならよだれを垂らすほど絶好の状況なのだ。実際、世界各地でそうしたフェイクニュースがSNSで拡散されている。

 今回のワクチン開発がスピーディなのはいくつかの条件が重なっている。まずファイザーとモデルナのワクチンはメッセンジャーRNA(mRNA)と呼ばれる天然化学物質の人工複製物を使用して免疫反応を起こすタイプで、従来のワクチンと開発・製造工程が全く異なる。ウイルスの遺伝子情報を分析し選択された部分の遺伝子情報を持つmRNAを設計し、そのmRNAが身体の中でウイルスの一部であるタンパク質を作るように狙って人工合成しているのだ。いわば最先端のバイオテクノロジーのおかげで開発工程に無駄がないのだ。

 しかも患者が世の中に急増していたので滞りなく大規模な臨床試験を進めることができたのも大きい。たとえ提供される試薬が(本物か偽薬か)2分の1の確率でも、「予防効果を持ちたい」と試験に協力してくれる人たちが大勢いたのだ(開発に遅れている日本のメーカーなどは、既に成功したワクチンが存在する中でこれから大勢の試験協力者を確保できるかは微妙だ)。

 もちろん製薬会社自身がリソースをこのワクチン開発に最優先に割り当て、関係者を叱咤激励してフルスピードで開発を進めたことも大きい。なぜそんなことができたか? グローバル規模のパンデミックということは、先行開発に成功すれば膨大な売上と利益が約束されているのだ。他のプロジェクトを差し置いても最優先するのがごく当然の経営判断だ。

 しかし手抜きの可能性は限りなく小さい。なぜなら万が一問題が生じてしかも手抜きが発覚すれば、世界中から叩かれてメーカーとして命取りになってしまうからだ。

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 各国での承認も異例のスピードだった。米国では緊急許可制度により、EUでは条件付き販売承認制度により、それぞれ3週間程度の審査期間だった(ファイザー製の場合)。それだけ各国の政府が待ち焦がれていたからだ。しかしここでも目こぼしや手続き洩れは有り得ない。各国での報道機関はもちろん政府批判派が大いにウォッチしているからだ(だから中露のワクチンに関してはこの部分は信用に値しないという論は理解できる)。

 ワクチンの効果を疑う人たちに対しては、各社の臨床試験結果だけでなく、各地での接種結果が第三者機関も交えて既に客観的に実証されていることを伝えたい。一番分かりやすいのが、ファイザー製ワクチンを使用して世界でも突出した接種率を達成しているイスラエルにおける研究結果だ。実際の感染予防効果および発症予防効果が、性別、年齢、基礎疾患の有無でそれぞれ報告されているが、従来のワクチンに比べ圧倒的に高い効果を上げていることに驚く。つまりこれらのワクチンの効果を疑う根拠は既に崩壊しているのだ。

 さて、残りの理由の大半は「面倒」だとか「注射が嫌い」「体内に異物を入れたくない」という理由を主なものとして挙げているが、基本的に「自分は感染しないと思う」または「感染しても自分は軽く済むと思う」という根拠のない妙な自信がその根本にあっての話のようだ。

 しかし若者が軽症で済むことが多いというのはあくまで確率論に過ぎず、個人差が大きい。しかも実際に症状が出てしまえば年齢に関係なく、軽症や無症状であっても後遺症が長期間続く可能性があることも分かっている。そうしたリスクも考えれば、ワクチンを打って安心できるほうがずっと賢明だ。

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 なぜ「自分は感染しないと思う」のかを語っている若い人の動画を観たが、その根拠は「今まで感染していないから」というズッコケるようなものだった。単に運がよかっただけなのに、これからもその強運がずっと続くと信じているその無邪気さには「おめでたい」としか言えない。

 また、先述のアンケートには表れていないが(設問にないのと、当人が明かさないためと考えられる)、「過去に一度感染しているから(抗体ができているはずだから)」という理由も、若い人の場合はそれなりに考えられる。しかし実は過去に感染した人の意外と多くが感染予防に十分な抗体を獲得できていないことが分かっている。しかしそうした人たちもワクチンを1度接種することで十分な抗体が作られるので、やはりワクチン接種はしておいたほうがよい。

 ここまで見てきて分かったように、ワクチン接種に消極的な人たちの理由のほとんどは根拠が薄弱、またはまったく不合理なものだ(もちろん、体質的な問題等で医師から非推奨とされている場合は別だ)。科学的に裏付けされた情報や合理的な見方に基づいたものではなく、単なる思い込みや偏った情報に迷わされているだけなのだ。

 先述したリーディングテックの調査結果でも、(情報の裏付けを要求される)マスメディアではなくSNSで主に情報を集めている人のほうがワクチン接種に消極的な傾向が表れている。つまり個人がいい加減な思い込みでアップした間違った情報がどんどん拡散され、若者の不安感を煽っているという状況が浮かんでくる。現代の若者の情報収集法がここでは悪い方向に作用しているのだ。

 しかしこのまま手をこまぬいていては、この先に一般接種が若い世代に回ってくる段階においてワクチン接種率が伸び悩むことになり、行動範囲が広く感染を媒介しやすい若者間での流行が続く事態が予想される。そうなると感染の連鎖はずっと続き、日本社会が集団免疫を獲得できないまま経済活動の正常化はどんどん先送りされてしまう。それは若者の雇用機会を狭めてしまうことにもつながる。

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 ではどうすればいいのか。端的にいえば、2つある。1つは、科学的見地に基づく正しい情報を積極的に若者に提供し、デマや誤解されやすい情報の拡散を抑える活動を進めることだ。ここでの主役としてはユーチューバーなどのインフルエンサー達とNPO/NGOの人たちに期待したい(あくまで政府の役割は正しい情報提供の部分だ。彼らがへたに情報のコントロールをしようとすると碌なことはない)。この点、既にワクチン接種率が伸び悩んでいる米国など世界各地の取り組み例を参考にできそうだ。

 もう一つ、もっと効果的なのは、さしたる根拠なしに迷っている若者たちに「接種したい」と思わせるインセンティブを与えることだ。具体的には若者がコロナ禍で我慢を強いられてきた諸活動(観光や飲食など)に関する規制を、2度のワクチン接種を条件に思い切り緩めるのだ(過去に感染した人は1度の接種でよい)。ワクチン接種証明書を提示すれば以前のようにマスクや酒無しなどの制約なしに楽しんでもらえるようにすれば、彼らも自ら正しい情報を探すだろうし、友人間で誘い合ってワクチンを打ってくれるだろう。(日沖 博道)

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