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Tuesday, January 11, 2022

国交省の統計不正問題、いま分かっていること 仕組みや影響を解説 [国交省の統計書き換え問題] - 朝日新聞デジタル

国交省の統計不正問題、いま分かっていること

 国土交通省の統計不正が昨年12月15日に朝日新聞の報道で発覚した。政府は問題を認め謝罪したが、疑問は山積みのままだ。データの書き換えは、だれが、いつ、なぜ始めたのか。二重計上が生じて統計が過大になっていることに気づきながら、なぜすぐに是正しなかったのか――。現時点でわかっていること、わかっていないことをQ&A形式でまとめました。新たな情報が明らかになるのにあわせて随時、更新していきます。

問題となった統計と不正の仕組みは

 Q 不正が行われていた統計とはどんなものなのか?

 A 建設業者が公的機関や民間から受注した工事実績を集計する、国交省所管の「建設工事受注動態統計」だ。国が特に重要だと位置づける基幹統計の一つで、2020年度は総額79兆5988億円だった。国内総生産(GDP)の算出に使われるほか、月例経済報告や中小企業支援などの基礎資料にもなっている。調査は、全国の約1万2千社を抽出して行われ、受注実績の報告を国交省が毎月受けて集計、公表している。

 Q 不正の内容は?

 A 国交省が、業者から提出された統計データの内容を無断で書き換えていた。書き換えていたのは、業者が受注実績を毎月記し提出する調査票だ。同省が、回収を担う都道府県の担当者に指示し、遅くとも10年代前半から書き換え作業をさせていた。

 具体的には、業者が受注実績の提出期限に間に合わず、数カ月分をまとめて提出した場合に、この数カ月分全てを最新1カ月の受注実績のように合算していた。作業は、この数カ月分の調査票の受注実績を都道府県の職員らが消しゴムで消し、合算した値を鉛筆で記入するという流れで行われていた。年間1万件ほど行われていたという。

 昨年末の臨時国会では、野党からは「原票を消しゴムで消したらまずい。子どもにも恥ずかしくて言えない」などと批判が噴出した。

二重計上、統計への影響は

 Q 書き換え行為は統計にどう影響した?

 A 同じ業者の受注実績を2回集計する「二重計上」が生じて、公表される統計が過大なものになってしまっていた。毎月の集計では、調査票を未提出の業者の受注実績もゼロとはせず、同じ月の提出業者の平均を計上するルールがある。それに加えて後からもう一度、同じ月の受注実績を計上する形になってしまっていた。

 昨年末の臨時国会では、斉藤鉄夫・国土交通相が「不適切な処理があったことについておわび申し上げる」と陳謝したが、だれが、いつ、なんのために書き換え行為を始めたのかは、わかっていない。統計がどのくらい過大になっていたかも、明らかにされないままだ。

 真相は、昨年末に立ち上がった統計や法律の専門家からなる検証委員会が調べている。1月中旬までに報告書をまとめるとしており、GDPに修正が必要なのかどうかなども明らかになる可能性があるが、「調査期間が短すぎる」との懸念も出ている。

統計不正はなぜ見過ごされたのか

 Q 18年末に発覚した「毎月勤労統計」の不正を受けて行われた一斉点検でなぜ見過ごされたのか?

 A 政府は19年1月、基幹統計が適切に調査されているか点検した。ただ、調査は各省庁の自己申告で、国交省からの報告はなかった。斉藤国交相は当時の対応について「ピックアップできなかった」と釈明している。

 勤労統計をめぐっては、総務省統計委員会が、調査方法を担当職員以外が理解しづらくなり、「ブラックボックス化」していたと指摘。政府は再発防止策として、19年7月から内閣官房に「分析的審査担当」の職員を配置した。ベテラン統計職員らが国交省を含む省庁に常駐し、公表の前後に統計の点検にあたるなど「監視機能の強化」を図った。

 だが、「身内」による監視には第三者性を疑問視する声があった。結果的に今回の不正も見抜けなかった。

問題を認識した時期は

 Q 国交省は書き換え行為が問題だといつ認識したのか?

 A 国交省の説明によると、会計検査院が19年11月に書き換えに気づき、同省に問題だと指摘していた。それを受けて同省は20年1月、作業を担わせていた都道府県に対し、書き換えをやめるよう指示した。

 それにもかかわらず、以降は同省の本省職員らが21年3月まで書き換えを続けていた。外部から問題だと指摘を受けた後も、1年3カ月にわたって「二重計上」につながる不正な作業を続けていたことになる。

 斉藤国交相が昨年末の臨時国会でこの事実を認め、「決して正当化しているわけではない」と断ったうえで、「一時的に必要な作業は国交省において行わざるを得なかった」と釈明。「統計の連続性」を確保するためだったとして、「対前年度の比較というのは統計の非常に大きな要素となる」と主張した。

 Q 不適切だとわかっていても、やらざるを得なかったという主張なのか?

 A 主張を疑問視する声は少なくない。

 野党からは「間違った統計同士を比較する理由がわからない。これまでの統計を正当化するため大きく激変させないようごまかすためでは」との批判が出た。専門家の間には「統計は正しいデータをもとにするのが大前提で、間違った数字で比較すること自体が統計学上、論外。データが実態と違うことを把握しながら是正せず放置していたことは問題だ」との声もある。

 さらに、現職官僚の間にも「矛盾だ」との声がある。国交省は20年1月の前後で、二重計上する量を変更したからだ。

 具体的には、業者からまとめて提出された数カ月分の受注額を合算し、最新1カ月の受注額のように書き換える際の合算量を、「全ての月」から「2カ月」に減らした。経済官庁の幹部は「比較のためと言うのなら、前提が同じでなければ」と疑問視し、身内である国交省内からですら「論理破綻(はたん)だ」との声が漏れている。

なぜ公表しなかったのか

 Q なぜ問題を認識した時点で公表しなかったのか?

 A 二重計上の量を意図的に減らし、公表することなく不正な作業を続けていたことについて、統計が不自然に見えぬよう調整していた可能性を指摘する声も出ているが、真相は見えていない。

 国交省は、20年1月~21年3月に本省職員がデータを書き換えていたことを認めたうえで、並行して適切な集計方法も行っていたと主張している。ただ、適切に集計した統計を公表したのは21年6月になってから。それまでは、問題だと認識しながら二重計上が生じた統計だけを、何のことわりもないまま公表し続けていた。

 21年6月に適切に集計した統計を公表した際も、「集計方法の変更があったためあらためて公表した」という趣旨の説明が添えられただけ。書き換えによる二重計上が生じた過大な統計を公表してきたことについては、触れぬままだった。

 首相が「大変遺憾」だと問題視するような不正にもかかわらず、国交省はなぜ、昨年末に朝日新聞が報じるまで公表せぬままにしていたのか。その経緯や理由も、なお明らかになっていない。

不正の影響はどこまで

 Q 国は書き換えの影響を過去にさかのぼって全て調べるのか?

 A 書き換えによる二重計上が生じたのは13年度からだ。それ以降に公表されてきた統計はいずれも、二重計上により過大になっていたことになり、調査して正しい統計に訂正する必要がある。

 ただ、業者が提出した調査票を、国交省は消しゴムで消してしまっているため、正しいデータをあらためて入手するのは難しい。国交省内に書き換え前のデータが残っている20年1月以降は訂正が可能とみられるが、それより前の期間の訂正をどうするか、政府は難しい判断を迫られることになりそうだ。場合によっては、過去の統計の数年間分が、不正な数値しか存在しないという異常事態になってしまう恐れもある。

 Q 書き換えによってGDPや政策への影響は出ているのか?

 A 政府は書き換えによるGDPへの影響は限定的だとしている。山際大志郎・経済再生相は昨年末の臨時国会で、「間接的にGDP統計にも影響が及ぶ可能性はあるが、その影響の程度は仮にあったとしても現時点では軽微と考えている」と答弁した。

 ただ、識者からは「GDP全体に占める内訳としてはそこまで大きくないものの、GDPの成長率への寄与という点では無視できない影響を与えた可能性がある」(平田英明・法政大教授)といった声も上がっている。

 中小企業支援の政策には影響が出ている。昨年12月28日、経済産業省の中小企業向けの支援策で、対象業種を選ぶ判断ができなくなっていることを国交省が公表した。本来受けられるはずの支援を受けられない企業が出てくる可能性があり、政府は金融機関への要請など対応に追われている。

 Q 今後の動きは?

 A 17日召集の通常国会でも、論戦が交わされるとみられ、この問題に関する集中審議も開かれる見通しだ。検証委員会や総務省統計委員会による調査と併せて、経緯や影響、責任の所在などが検証される。政府としては、実効性のある再発防止策の打ち出しを迫られることになる。

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