2021年2月1日に起きたミャンマー国軍のクーデターからまもなく1年。人権団体「政治犯支援協会(AAPP)」によると、軍の銃撃や拷問による死者数は28日時点で1499人となった。ミャンマー国民は国軍による弾圧に抵抗し、民主化を求めて活動を続けている。若者を中心とした市民が戦いの場としているのはSNS(交流サイト)だ。
取材班は投稿件数の多いツイッターのハッシュタグ「#WhatsHappeningInMyanmar」に着目した。 クーデターの起きた21年2月1日から22年1月18日までに計2億4960万4664件の投稿があった(リツイートや返信も含む、トラック・マイ・ハッシュタグ調べ)。
1日で最も投稿件数が多かったのは21年2月20日の306万1789件だった。この前日の19日にデモ参加者に初めての犠牲者が確認された。
最多の月は21年5月で計4778万4982件。世界の各都市で国軍による弾圧を非難し、民主派勢力の「挙国一致政府(NUG)」への支持を訴えるデモが行われた「春の革命の日」があったためだと考えられる。
5月をピークに投稿は徐々に減り、10月以降は1日当たり10万~20万件台になった。
12月5日、ヤンゴンで若者たちの小規模なデモ隊の背後から軍の車両が突っ込んだ。市民が撮影した映像がSNSで爆発的に拡散、この日の投稿は50万2275件にのぼった。
投稿によると、事件が起きたのはヤンゴン中心部に近いチーミンダイン地区。地元メディアのKhit Thit Mediaが市民から提供を受けた映像をフェイスブックに投稿している。分析してみると路上に書かれたミャンマー語「春の革命」の文字から、同地区のパンピンジー通りで撮影されたことがわかる。
Khit Thit Mediaにフェイスブック上で取材を申し込むと、「報道している写真や映像は自分たちのジャーナリストが撮影することもあれば、市民ジャーナリストから提供されることもある」との返答だった。
ミャンマーでは14年ごろからスマートフォンが普及し、特にフェイスブックの利用率が高かった。しかし、クーデター以後はツイッターの利用者が増えている。国軍は21年2月にSNSへの接続を遮断したが、多くの市民が無料のVPN(仮想私設網)を使って規制を回避、利用を続けている。#WhatsHappeningInMyanmarで投稿している人の中には、21年2月以降にツイッターのアカウントを取得した人が多くみられた。ミャンマー語が主体、実名のフェイスブックから、英語で世界中に匿名投稿できるツイッターに切り替えたと推測される。
取材班は「#WhatsHappeningInMyanmar」のハッシュタグを使って国軍による暴力行為や市民らの抗議活動を頻繁に発信している107人に連絡を試みた。連絡が取れた52人中、20人からミャンマー国内の現状などについて質問の回答が得られた。
この107人の投稿者のうち、居住地を海外に設定している人は45人だった。本当の居場所を聞くと「ミャンマー国内」と答えてくれた人もいた。身の安全を考えてか、居住地について詳細な回答を避ける傾向が見られた。
Aさん(学生)
「軍の兵士は銃を持ち、通りを行く人をチェックしています。最も恐ろしいことは、彼らが酒に酔っていて、意味もなく人を殴ったりすることです。現金を要求されることもあります。数カ月前、私は軍の集団により検査されました。民主化運動に関連するものを探すためです。私は逮捕されませんでしたが、携帯電話から何か見つかったのか女の子が逮捕されました。25人くらいの兵士と警察がいて、私たちは何もできませんでした。恐怖の体験でした」
自宅の裏庭で撮影した希望の1枚。この1年ほどは気分が落ち込み、これ以外の写真は全て削除してしまった
CDM Student from Myanmarさん
「17歳にはつらい状況です。働けないのでお金も稼げません。携帯電話にはお金がかかります。国軍は私たちを学校へ通わせようとしますが、今の教育環境はとても悪いです。教員ではなく軍の支持者が教師として授業を進め、何も教わることができません。私たちは、自分たちの未来を犠牲にして戦っています」
CDM Student from Myanmarさんが描いたイラスト。満月に孤独を感じて作品にしたという
@yteews11(医師、ヤンゴン)
「オミクロン型は今拡散し始めています。しかし、保健・スポーツ省は実際には機能しておらず、軍もコロナには無関心です。医療関係者の約70%がCDM(市民的不服従運動)に参加しています。国軍はCDMの医療スタッフ全員を見つけだして逮捕しています。医師はCDMのリーダーであり、軍に対抗しています。日本や国際社会に求めることは、政権に流れるすべての資金を止めること。 政権をミャンマー政府として認めないことです」
デモの負傷者を手当した医者に配布されたミルクティー。ラベルには「革命を勝ち取る」と書かれている
@SaveMM99さん(22歳、大学生)
「毎日が悪夢のような日々です。非武装の市民が殺され続けているのを見て、私の心は粉々に砕け散っています。軍の弾圧の下で恐る恐る生活しています。軍人は何の理由もなくいつでも私たちを逮捕し、殺すことができます。私たち若者は非人道的な軍事政権と戦うために命をささげています」
好きなアーティストに描いてもらった自身のイラスト。募金活動の一環で、代金の一部が避難民や「国民防衛隊(PDF)」に寄付される
@ActivistLittleさん
「国家統治評議会(SAC)はあらゆる方法で人々を抑圧しようとしています。ですがVPNの利用を許可制にするばかげた新法をもってしても、私たちの運動と革命を止めることは絶対にできません」
2021年2月、ヤンゴンで抗議活動に参加する@ActivistLittleさん
Nicholasさん
「ミャンマーの生活は非常に厳しいです。インフレでガソリン価格は急騰しています。ビジネスは悪いです。紛争地帯では多くの人々が仕事を失っています。食料価格も毎日上昇しています」
Nicholasさんはテレグラムで、反軍政を意味する3本指のイラストを使っている
Bさん(28歳、ヤンゴン)
「昼夜を問わず治安部隊が市民の所有物を調査し、反クーデター的な物が見つかれば説明なく逮捕されます。最悪の場合は暴力もふるわれます。 そして、ほとんど毎日予告なく停電が起きます。祖母は酸素吸入器を使用しているため大変困っています」
2021年3月、ヤンゴンで行われた抗議活動の際にBさんが撮影した写真
NanNanさん
「私は、2021年の3月3日に投獄され、刑務所で3週間をすごした約300人の学生のうちの一人です。学生だったため拷問などは受けずけがはしませんでしたが、家に帰りたくて泣いて過ごしました。今も毎日のように刑務所の夢を見ます」
抗議デモに参加したNanNanさん
@minn_robertさん
「私がツイートする写真は、地元の独立メディアからのものです。人々が(突発的な)モブ抗議を行うだけなので、2月から3月にあったような大規模デモはありません。 6月と7月にコロナの第3波が国を襲い、酸素の供給不足で数千人が死亡しました。医師と治療が十分ではありません」
デモに参加した時の@minn_robertさん。一緒に逃げた15人の仲間のうち9人が捕まり拷問されたという
@Kevin_linnnさん
「今は絶望の時です。収入もなく、仕事のチャンスもない。もし軍部のために働いているのなら、軍の支配に従わなければならず、恐怖を感じながら働かなければなりません。軍とのつながりがある人だけが、快適な未来を手にすることができます。しかし、違法な軍事政権のために働く人々を誰もが見下し、憎んでいるのです」
@Kevin_linnnさんは主にツイッターのリツイート機能を使って情報を拡散しているという
@KelvinPhyo14さん
「このテロリスト政権下では『悲惨』という言葉が最もふさわしいです。教育、医療制度、ほとんど全てが崩壊しています。停電も頻繁に起こるようになりました。今、私は暗闇の中でこれを書いています」
抗議デモに向かう途中、@KelvinPhyo14さんは国軍リーダーの顔写真を友人たちと踏みつけた
Thuzarさん
「1日4~5時間、町によってはそれ以上の停電が発生しています。軍に電気料金を払わないと電気が遮断されます。独裁政権下の日々はかなり長く感じます。民主主義を取り戻すため必死にもがいていますが、実際は憂鬱で絶望的です。言葉だけではない、国際社会からの本当の助けを求めています。軍の収入を断つような効果的な制裁を求めたいです」
昨年のアウンサンスーチー氏の誕生日には家族で赤いバラを身につけた。独裁政権に対してあらゆる手段で対抗するという思いを込めた
Cさん(24歳、ヤンゴン)
「当初、軍が行う拷問について国際社会が何か行動を起こしてくれると希望を持っていましたが、これは間違いだと気づきました。私たち自身で民主主義、正義のために戦わなければならないと悟りました。これが多くの若者が戦いに加わった理由です。国際社会からの非難にもかかわらず、軍はそれを無視しています。無差別な殺人、レイプを行っています。何人かは生きたまま焼かれました。NUGをサポートしてほしいです 」
@pyaezlburmaさん
「クーデター反対運動は今でも活発です。残忍な取り締まりと暴力の中で、恐れを知らない若者と学生は民主主義と自由に向かって進んでいます。私はデジタルストライキに参加し、ミャンマーで何が起きているのかを積極的にツイートしています。食料、医薬品、住居、安全の確保に苦しんでいる多くの難民がいます」
Dさん
「デモには参加できないが、重要なニュースをSNSで共有したり、お小遣いを使って寄付したりしている。英語が上手でなく申し訳ありません。具体的な情報を知りたければ、私よりもっと詳しい人をご紹介します」
@WaiPhyo51905473さん
「国軍は、残酷にも1400人以上の罪のない人々の命を奪いました。女性や子どもたちも含まれています。何千人もの人々が、危険を恐れて自分たちの家を捨てざるを得ませんでした。各地でインターネット通信が遮断されています。情報の流れを止め、自分たちの暴力を隠すためです」
国軍はロシアのアプリで情報発信
フェイスブック(現メタ)は21年2月、ミャンマー国軍によるサービスの利用を禁止した。SNSに加え、同社が運営する画像共有アプリ「インスタグラム」の利用も禁止した。国軍のほか、国軍が支配するメディアなどによる利用も認めていない。さらに12月には国軍の統制下にある企業のアカウントやページを削除した。動画投稿サービス「ユーチューブ」も3月に国軍の利用を禁止した。欧米のSNSを利用できなくなった国軍は現在、ミャンマー語の広報映像をロシアの無料通信アプリ「テレグラム」に投稿している。
タンゾーダさん
ヤンゴン出身 、35歳のタンゾーダさんは日本国内でミャンマーの民主化を訴える団体「Revolution Tokyo Myanmar(RTM)」の代表者だ。
「Free Free Our People(私たちの国民を解放せよ)!」
1月15日、東京都品川区の在日ミャンマー大使館前で在日ミャンマー人らによるデモが行われた。タンゾーダさんは先頭でマイク片手にシュプレヒコールをあげていた。在日ミャンマー人ら約120人が参加し、デモの様子をフェイスブックなどでライブ配信する人たちの姿もあった。
発足当初5~6人だったRTMのメンバーは現在約40名。フェイスブックで呼びかけ、月2回は大使館前などでデモ活動をしている。タンゾーダさんはミャンマーの現状に、「自分の子どもや孫の世代までこの政権を存続させてはだめだ」と強く思っている。娘がニュースを見ながら「帰ったら捕まっちゃうね」と言ったのを聞き、自分たちが終わらせるしかないと決意を固めた。
クーデターの約1週間後から祖国で暮らす祖母や親戚と直接の連絡はとっていない。自分とつながりがあると国軍に知られたら危険が及ぶ可能性があるためだ。「本当は心配、けど我慢しなくては」。 声を聞きたい気持ちをこらえている。
大使館前のデモでタンゾーダさんは国軍との衝突で犠牲となった人のために黙とうしようと参加者に語りかけた。参加者全員が国軍への抗議を示す3本指のポーズで静かに目を閉じた。
ソーさん(仮名)
19年に来日し、清掃会社に勤務するソーさん。父親と兄弟、夫がヤンゴンにいる。夫とは日本で一緒に暮らす予定だったが、新型コロナウイルス禍で来日できなくなり2年近く会えていない。 ヤンゴンの家族とは毎日フェイスブックの通話機能を利用して話をしているという。
家族によると停電が頻繁に起こっているようで、都市部のインフラは安定していない様子だ。 「どこも戦いが多く混乱した状況だと認識している。それを聞いて自分も混乱するし心配だ」とソーさんは話す。
(データビジュアルエディター 斎藤一美、小谷裕美、石井理恵、淡嶋健人、藤井凱、松島春江)
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からの記事と詳細 ( 軍の弾圧 世界に訴え ミャンマー市民2.5億のツイート分析 - 日本経済新聞 )
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