東京電力福島第1原発の処理水を巡り、政府が海洋放出の方針を固めた9日、本格操業への移行に向け歩み始めたばかりの県内の漁業関係者からは憤りの声が上がった。政府は風評対策を強化する方針だが、十分な説明がないまま進む政策決定に、県内の漁業関係者らは「(対策の)中身が見えない」「信用できない」と不信感を募らせる。
「風評対策などと支援策を言われても、漁業者は何も信用できなくなっている。とにかく、海洋放出は絶対に反対だ」。小名浜機船底曳網漁協所属の「第3政丸」船主志賀金三郎さん(74)は、政府の方針に声を荒らげる。
原発事故前には茨城県沖など他県での漁も行っていたが、原発事故後は他県での操業を自粛。いわき市沖で漁を続けてきたが水揚げ量は少なく、今月始まった本格操業への移行に大きな期待を寄せていた。「水揚げ量を拡大し、消費者の皆さんにおいしい魚を届けようとしているのに、なぜ今なのか」と憤る。
不信感の背景には、政府の不十分な説明に加え、相次ぐ東京電力の不祥事がある。「これまで漁業者がどれだけ苦渋の決断をしてきたのか理解されていない。処理水を海に流されたら、福島の魚介類はまた敬遠されてしまう」
アサリ漁に携わる相馬双葉漁協松川浦地区代表の菊地寛さん(75)は「漁業関係者の話を聞かずに、よくやるものだ。風評対策をするといっても、中身が見えない」と怒りを込める。
震災前、全国的な青ノリの産地だった松川浦。県外のノリ買い取り業者と、地区の代表として懇談したときの言葉が数年たっても忘れられない。「(本県産は)いりません」。風評の根深さを実感しており、「こんな状態がまだまだ続いていくだろう」とうなだれた。
菊地さんは、将来の漁業を担う若手たちも気遣う。「漁業者が何を言ったって、(政府に)聞いてもらえない。それでは、若手のやる気もそがれてしまう」
政府の方針に不信感を持つのは漁業関係者だけではない。いわき市の薄磯海水浴場近くで民宿「鈴亀」を営む鈴木幸長さん(68)は「処理水が流れれば、海と一緒に生活する自分たちはずっと付き合っていかなくてはならない問題だ」と切実な声を上げる。
宿では地元の新鮮な魚介料理や、天日干しなどで加工した魚を土産などで提供している。60年近く海水浴場で海の家も営み、薄磯区会の区長として震災後は海水浴場再開に力を尽くすなど、海と共に歩んできた。
観光復興もこれからと意気込んでいただけに「観光業者にも具体的な説明をしてほしい。海を訪れてくれた人に何の説明もできない」と複雑な表情。「震災時も補償の動きは遅かった。素早い風評、補償対策をしてほしい」と求めた。
県漁連会長「絶対に反対」
政府の海洋放出方針を受け、県漁連の野崎哲会長は福島民友新聞社の取材に「福島で生活し、漁業を続けていくので処理水の海洋放出は絶対に反対。福島だけでなく全国の漁業者に関わる問題。国民的な議論もされていない」と話した。
からの記事と詳細 ( 「もう何も信用できない」 処理水海洋放出、憤る福島県漁業者 - 福島民友 )
https://ift.tt/2PUeRzU
No comments:
Post a Comment