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Thursday, April 1, 2021

裁判手続きの「穴」突いたか…ウソ住所かたられ「欠席裁判」、知らぬ間に敗訴 - 読売新聞

 知らない間に裁判を起こされた女性経営者に対し、久留米簡裁が未払い賃金の支払いを命じる判決を言い渡し、女性の預金が差し押さえられた。元従業員の男が女性の住所を偽って提訴したため、女性に訴状が届かず、「欠席裁判」になったという。再審請求訴訟で判決は取り消された。訴状が送達できなくても審理を進める民事訴訟の制度が悪用されたケースで、最高裁は全国の裁判所に注意喚起した。(小野悠紀、河津佑哉)

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 福岡県久留米市でラウンジを経営する女性は昨年6月、会社名義の通帳の文字に気付いた。同5月に約135万円が引き出されており、銀行などに尋ねると、身に覚えのない確定判決に基づいた差し押さえだった。

 原告は、女性がスタッフとして雇っていた30歳代の男。

 2019年5~9月の賃金が未払いだとして同10月、約120万円の支払いを求めて久留米簡裁に提訴した。だが、女性のもとには訴状は届かず、出廷も反論もできないまま、簡裁から訴えを認めたとみなされ、請求通りの判決が確定していた。

 男は裁判手続きの「穴」を突いたとみられる。

 民事訴訟では通常、裁判所が原告から提出された訴状を被告に郵送し、受け取りを確認して審理が進められる。だが、居留守や受け取り拒否で送達できない場合は、「付郵便送達」を実施できる。訴状を発送した時点で「送達完了」とみなす制度で、原告が裁判を受ける権利を守るためのものだが、これが悪用された。

 今回、男が訴状に記した被告の住所は女性と無関係のビル。簡裁はこの住所に訴状を郵送したが、返送された。男は「部屋から出てきた女性に声をかけたが、無言でタクシーに乗り込んだ」とするうその報告書を簡裁に提出。簡裁は女性がビルに住んでいると信じ、付郵便送達を実施した。

 その後、女性は何も知らされないまま裁判が開かれ、昨年2月に判決が確定。男は同5月、遅延損害金を含めて差し押さえを申し立てた。

 女性は昨年7月、久留米簡裁に再審を請求。男は出廷せず、簡裁は今年3月15日、確定判決を取り消し、男の賃金支払い請求を棄却した。女性は「だまされた裁判所にも責任がある」と憤るが、簡裁は「個別の事案にはコメントできない」としている。

 一方で福岡県内の裁判所職員は「住所をどこまで確認するかは書記官によってまちまちだが、住民票にある住所に郵送して確認することもできた。チェックの甘さは否めない」と話す。

 読売新聞の調べでは、男は別の3人に対しても同じ手口の訴訟を起こしていた。このうち、久留米市の別の飲食店経営者は同様に再審請求訴訟を起こして勝訴。大分市の飲食店経営の女性は、男を私文書偽造容疑で大分県警に告発した。最高裁は、制度を悪用している可能性があるとして、男の情報を全国の裁判所に周知した。

 元民事裁判官の佐藤歳二弁護士は「訴状の送達は民事訴訟の大前提で、被告に反論の機会を与える意味で重要だ。ただ、裁判所がチェックを厳格にすれば、原告の権利が制限されかねず、バランスが悩ましい。今後、同様の被害が広がるなら送達のあり方を検討する必要も出てくるだろう」と話す。

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