ぼやけていた輪郭がくっきり浮かんだ。細身の短髪で、20~30歳代に見える。目尻に特徴があった。
数年前。東京都世田谷区上祖師谷の会社員宮沢みきおさん(当時44歳)一家4人が殺害された事件で、警視庁は最先端のデジタル技術を駆使し、ある男の画像を「鮮明化」した。
「男を知る人物が画像を見れば、誰だか分かるのではないか」。捜査関係者はそう明かす。
男は事件前日の2000年12月29日昼、現場から北に約5キロ離れたJR吉祥寺駅(武蔵野市)北口近くのスーパーの防犯カメラに映っていた。店では、この時間帯に凶器と同じ柳刃包丁「関孫六 銀寿」が販売されており、この男が購入したとみられている。
捜査関係者は「映像の男が犯人とは限らない」とくぎを刺すが、事件直前の00年12月に現場周辺で同じ包丁を購入したとみられる人物のうち、映像が残るのはこの男だけだ。捜査員は、鮮明化した男の顔を目に焼き付けている。
特捜本部は当初、現場に残された犯人の衣服のサイズなどから、「身長1メートル75前後でやせ形の若い男」という犯人像を描いた。
生活圏としては、都心西部のJR中央線や京王線の沿線が浮上した。遺留品約10点のうち、トレーナーやヒップバッグなど5点を中央線荻窪駅(杉並区)周辺で買いそろえることができたのが理由だ。防犯カメラの男が訪れた吉祥寺も2駅先と近く、沿線では重点的な聞き込みが行われた。
犯人は4人を殺害後、室内に居座り、素手でカップのアイスクリームを絞り出して食べたり、みきおさんのパソコンで劇団のホームページを見たりしていたことから、その「異常性」に注目が集まった。だが、聞き込みや遺留品の捜査で、明確な犯人像は浮かび上がらなかった。
捜査が行き詰まる中、比重が高まっていったのが、科学捜査だ。防犯カメラ画像の鮮明化のほか、DNA捜査にも大きな期待がかけられた。この20年で鑑定技術は著しく進化し、DNA型の照合以外にも、犯人に近づくための捜査が可能になってきたからだ。
05~06年の鑑定では、現場に残されたA型の血液から採取した犯人のDNAについて、母系から伝わるミトコンドリアDNAと、父系から伝わるY染色体を解析。「父方は日本を含む東アジア系、母方は南欧系にそれぞれ多い特徴がある」との分析結果が出た。
特捜本部は、犯人が日本人とは限らず、片方の親や祖父母が外国人の可能性もあると推定。日本人と外国人の子で周辺に土地鑑があり、事件後に出国した男性について調べた。男性は事件とは無関係だったが、元捜査員は「新たな科学捜査の可能性に期待が高まった」と振り返る。
数年前にも、犯人の「ルーツ」をさらに絞り込むため、DNAの再鑑定が行われた。再び外国人の可能性が示唆されたが、同時に、日本人である可能性も否定はされず、犯人像を絞る決め手にはなっていない。
「外国人説」は当初からあった。犯行の手口のほか、足跡から判明した靴が日本で販売されていないサイズの韓国製「スラセンジャー」だったことや、遺留品のヒップバッグも韓国製だったことなどが理由だ。
警視庁は、韓国に捜査員を派遣して靴の流通ルートを確認。17歳以上の国民の指紋を登録する韓国当局に犯人の指紋との照合を依頼したが、有力な情報は得られていない。
昨年9月には、航空会社から乗客名簿の提供を受ける「事前旅客情報システム」(APIS)を通じ、「事件当時、現場近くの留学生寮に住んでいた韓国人男性が来日する」との情報が入り、捜査員が地方空港に飛んだ。捜査の結果、この男性も「シロ」と判明したが、当時日本に住んでいた外国人に関する捜査は現在も続けられている。
明確な犯人像は、依然として見えていない。捜査幹部は「予断を持たず、あらゆる可能性を一つ一つ潰していく」と話した。
からの記事と詳細 ( [世田谷一家殺害20年]<中>犯人像 見えぬまま 画像鮮明化…科学捜査に期待 - 読売新聞 )
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