「トランプは必ず勝つ。私たちは闘い続ける」――。星条旗や「TRUMP 2020」の大旗を翻し、大型トラックや車のキャラバンが南部テキサス州から東に米国を横断し、首都ワシントンを目指した。
大統領選は「不正」だと抗議し、トランプ支持者が全米から首都ワシントンに集結した(2020年11月14日)。私も前日に、ニューヨークからワシントン入りした。今回の連載では、トランプ氏の勝利を固く信じ、ともに闘い続ける「ファイター」たちを取り上げる。
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ワシントンでのトランプ支持者の集会にサウスカロライナ州からやってきた家族。後ろはトランプグッズなどを売る屋台(2020年11月、筆者撮影)
ワシントンに集結する支持者
キャラバンだけでなく、南東部ジョージア州など全米から10数時間かけて車で駆けつける人、西部カリフォルニア州やオレゴン州から飛行機でやってくる人たちもいた。
抗議デモの前に、その噂を聞きつけた反トランプの地元の人たちが、次々にツイッターなどで危機感を露わにした。
「トランプ支持者がワシントンに押しかけてくるそうだ。アメリカは炎に包まれるぞ」
「あいつらは武器を持ってやってくる。危険だ。ワシントンに行くのはやめろ」
「白人至上主義者たちだ。STAY AWAY.(近寄るな)」
この連載の前々回の記事(2020年11月14日公開)では、「バイデン勝利」を受け止めよう、あるいは受け止めざるを得ないとするトランプ支持者たち、前回 (2020年11月15日公開)は、「メディアが大統領を決めるのか」と、今の流れに強く反発する声を紹介した。
そして今回は、これからもトランプ氏を支え、共に闘い続けるファイターたちだ。
一体、彼らは何者なのか。
「アメリカに住む半分の人たちのことを、忘れないでほしい」
私がワシントンに到着し、ホテルに向かう途中、「MAGA(Make America Great Again)の赤い野球帽を被った人たちで繁盛している屋台があった。大統領選当日(11月3日)に私がワシントン入りした際、この屋台主のベトナム出身の男性と話した。
あの時、トランプ支持者だという彼の店に並べられていたのは、ほとんどトランプ・グッズで、申し訳程度にいくつかバイデン・グッズが置かれていた。
ワシントンは民主党支持者が圧倒的に多い街だ。今、わかっているデータでは、今回の大統領選でトランプ氏に投票したのは、わずか5.5%だ。
「この街で、あなたは勇気があるわね」と言うと、「僕はトランプが好きなんだ。別に悪いことをしてるわけじゃない」と胸を張った。
「本当はトランプのグッズだけ売りたいんだ。でもバイデン支持者が多いし、商品がないと彼らがうるさいから、バイデンのも一応、置いている」と言っていた。
今回、店のすぐ脇の彼のトラックには、バイデン支持の大きな旗が掲げられていた。
「生活のためには仕方ないんだ。でも、今はトランプ・グッズがどんどん売れてるよ」と嬉しそうに話す。その日辺りから、全国のトランプ支持者が到着し始めたからだ。
店の前にいた家族に声をかけると、皆、笑顔で挨拶を返してくれた。
彼らは、米南東部サウスカロライナ州グリーンヴィルから車でやってきたという。夫婦と子供5人(8歳から18歳)で、全員、トランプ支持の野球帽とパーカーなどを身につけていた。
私が記事を書いていると知ると、父親が「メディアか」と顔を曇らせたものの、すぐに心を開き、「日本の人たちに伝えてくれ。『アメリカに住む半分の人たちのことを、忘れないでほしい』と」と語った。
「僕たちは世界じゅうで誤解されている。トランプ支持者はきちんとした、いい人たちだ。ミドルクラスの勤勉なアメリカ人だ。黒人の命は大切だと思っている。この国が大切だと思っている。だからこの国で起きていることに、無関心ではいられないんだ。法に則って真実が明らかになり、正しい大統領が選ばれる。それはドナルド・J・トランプと信じている」
彼は、選挙関連のテクノロジー企業「ドミニオン投票システムズ(Dominion Voting Systems)」の投票システムについて触れた。全米の約半数の州で使われているこのシステムで、数百万票のトランプ票を削除したとの疑惑があるというのだ。
「俺たちはリベラルと違い、街を燃やしたりしない」
その後、街中ですれ違った人たちは、その多くがトランプ支持者だった。身につけているものから支持者とわかると、互いに笑みを交わし、声をかけ合っている。ちょうど一週間前にニューヨークの街じゅうで、「バイデン勝利」に湧く人たちが、そうしていたように。
あちこちのホテルや店の前で、トランプ支持者が見知らぬ人同士でおしゃべりしている。私のことを支持者だと思い、「ワシントンまで来てくれて、ありがとう」と声をかけてくる人も少なくない。
時に、彼らトランプ支持者に反発を覚える地元の人たちが、「この街から出ていけ!」「Fuck Trump!」などと罵声を浴びせると、激しい言い合いが始まった。
道端で出会ったクリスチャンの男性2人は、私がこの連載を書いており、クリスチャンだと知ると、「あなたのために祈ってもいいですか」と言い、その場で祈ってくれた。
「神様、ミッツィ(私のニックネーム)の安全をお守りください。彼女が心のこもった素晴らしい記事を書けますように、お導きください」
そして、「明日、よかったら一緒に抗議デモに行きましょう」と誘ってくれた。
その夜、トランプ支持者がよく集まるバー「ハリーズ」に行ってみると、店の前で陽気に前夜祭が開かれていた。車道では、「Y.M.C.A.」などのディスコミュージックが大音響で流れるなか、それに合わせて支持者たちが楽しそうに歌い踊っている。
「Y.M.C.A.」は、トランプ氏の集会でよく流れ、支持者らもトランプ氏もそれに合わせて踊り出す。
路肩には、「TRUMP UNITY」の大きな文字をあしらった荷台を牽引する車が停まっている。何台ものパトカー、そして大勢の警官が待機していた。星条旗を手にトランプ支持者になりすました男性が車道に乱入してくると、「警官の指示に従うように」とトランプ支持者らが彼に呼びかける。呼びかけていた人の中には、リベラルのメディアでは「極右の自警団」とされる「Proud Boys(プラウド・ボーイズ)」もいた。
この乱入をきっかけにやや混乱が起きると、8時40分頃、突然、警察から集会に解散命令が出て、バーが閉鎖された。
トランプ支持者の男性が、「こんなに平和的にやっているのに、なぜだ? 俺たちはリベラルと違って、街を燃やしたりしていないじゃないか」と叫ぶ。
「市長(民主党)の命令だろう」とする声が上がった。私がバーのオーナーに理由を尋ねると、「そうではないよ。人が多過ぎて、新型コロナウイルス感染の心配もあるからだよ」と答えた。このバーのオーナーは、トランプ支持者と聞いている。
主催者らしき女性がスピーカーを通して、「不平はやめて、規則に従いましょう。私たちは法と秩序を重んじる人間です。警官の皆さんに敬意を払いましょう。明日、また会いましょう。気をつけて帰ってください。God bless America.(アメリカに神のご加護がありますように)。警官の皆さん、ありがとうございました」と呼びかけた。
すると、あちこちから警官たちに対して、「Thank you!」と感謝の声と歓声、拍手が湧き起こった。
大手メディアの「トランプ支持者像」との落差
私はこの日、すれ違ったほとんどのトランプ支持者たちに声をかけ、話した。そして、相手からも声をかけられた。そのすべての人たちが、笑顔でフレンドリーで礼儀正しかった。
私は高校時代に交換留学で、中西部ウィスコンシン州にある人口2,000人の小さな田舎町で1年間、過ごした。大学でも留学生として1年間、中西部オハイオ州で暮らした。私が今も親しくしているどちらの州の友人たちも、そのほとんどが民主党支持者でトランプ氏を嫌っているが、そうではない人たちもたくさんいる。
民主党支持のニューヨーク出身の友人が時々、「ウィスコンシンの人たち」とやや軽蔑を込めた言い方をするのに、抵抗を覚えることがある。「教養のない田舎の人たち」という思いがこもっている。
1日中、トランプ支持者たちと接して、中西部で暮らしたあの頃の、懐かしいアメリカを思い出した。彼らのほとんどは、マスメディアやニューヨークのトランプ嫌いの友人たちが思い描く「トランプ支持者像」とは、ズレがある。
この連載の次回の記事(2020年11月19日公開予定)では、翌14日のワシントンでの抗議デモを中心に伝える。
その日、朝から緊張感高まるいくつかの場面に遭遇した。そして、バイデン氏が正式に大統領になったら、「武器を手に戦う準備がある」と語る人たちにも出会った。(随時掲載)
++ 岡田光世プロフィール
おかだ・みつよ 作家・エッセイスト
東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓を描いている。米中西部で暮らした経験もある。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1弾から累計40万部。2019年5月9日刊行のシリーズ第9弾「ニューヨークの魔法は終わらない」で、シリーズが完結。著書はほかに「アメリカの家族」「ニューヨーク日本人教育事情」(ともに岩波新書)などがある。
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November 17, 2020 at 08:28PM
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岡田光世「トランプのアメリカ」で暮らす人たち 勝利信じる「トランプ・ファイター」とは何者なのか - J-CASTニュース
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