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Tuesday, July 14, 2020

米、ドルで中国締め上げ 香港巡り8つの金融制裁検討 - 日本経済新聞

米国の香港自治法は中国の金融機関のドル取引を停止させることも可能になる=ロイター

米国の香港自治法は中国の金融機関のドル取引を停止させることも可能になる=ロイター

【ワシントン=河浪武史】トランプ米大統領が14日署名して成立した「香港自治法」は、中国の大手銀行への金融制裁に道を開く。ドル調達の封じ込めに照準を定め、米銀からの資金調達や外為取引を禁じる8つの制裁手法を列挙。制裁を実行すれば世界の金融システムに亀裂が入りかねない強烈な「脅し」となる。

香港自治法に盛り込まれた米当局の経済制裁は2段階ある。米国務省は90日以内に、香港の自由や自治を侵害した個人や団体を特定し、ドル資産の凍結などの制裁の可否を検討する。米共和党は制裁対象として、中国共産党・最高指導部の韓正副首相(香港担当)らを視野に入れる。

2次制裁として、その個人や団体と取引がある金融機関も対象となる。香港自治法は具体的な制裁手法を列挙しており(1)米銀による融資の禁止(2)外貨取引の禁止(3)貿易決済の禁止(4)米国内の資産凍結(5)米国からの投融資の制限(6)米国からの物品輸出の制限――など8項目が決まった。金融機関には個人や団体との取引断絶などの措置をとれるように制裁発動まで1年間の猶予を与える。

同法は対象を中国の金融機関に限っていないが、中国銀や中国工商銀、中国建設銀、中国農業銀など巨大銀行のドル取引に照準を当てる。実際、同法を主導した共和党のトゥーミー上院議員は「中国経済の将来はドル取引にかかっている。中国の巨大銀行がドルより(香港の)迫害者との取引を優先するならそうすればいい」と言い放つ。

基軸通貨ドルの封じ込めは、中国への強烈な「脅し」となる。中国銀など同国四大銀は1兆ドル規模のドル預金を抱える。中国企業の貿易決済を担うだけでなく、新興・途上国でのインフラ投資など「一帯一路」事業の資金の出し手だからだ。

米当局は国際的なドル決済を常に監視してきた。米国内にはドル決済網として、米連邦準備理事会(FRB)が運営する「Fedwire(フェドワイヤ)」とウォール街主体の「CHIPS(チップス)」があり、中国の巨大銀も参加する。両者の一日あたりの取引額は3兆ドル超と巨額で、決済網からはじき出されれば途端にドルの資金繰りに窮することになる。

もっとも、中国の大手銀をドル経済圏から排除すれば「中国の銀行不安に直結し、国際的な金融システムそのものが揺らぎかねない」(米財務省幹部)。米当局は対北朝鮮制裁で中国の丹東銀行(遼寧省)をドル決済網から締め出したことがあるが、大手銀には金融制裁を科さなかった。中国のドル調達を締め上げられる今回の異例の制裁手段も、影響力が甚大すぎて「抜かずの宝刀」となる可能性がある。

もう一つの未知のリスクは日米欧の金融機関への影響だ。香港自治法は金融機関への制裁に1年間の猶予があり、その間に制裁対象の個人や団体と取引を打ち切るよう求めている。ただ、中国が制定した香港国家安全維持法には「外国勢力との結託」を禁じる項目があり、米国の制裁に従えば逆に中国から報復措置を浴びるリスクもある。香港を巡る米中の亀裂は、国際金融システムの弱点となりかねない。

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