インドのモディ首相は、今回の総選挙で大きな後退を余儀なくされ、自ら率いるインド人民党(BJP)が下院で単独過半数を失う方向だ。同首相は3期目続投の意向を示すが、BJPは連立政権の樹立を迫られる可能性が高い。経済問題に焦点を絞った選挙キャンペーンを展開する野党連合に挽回を許し、モディ氏とBJPは政治的な痛手を負った。
インド総選挙の結果
6週間にわたる長丁場となった総選挙の当初開票結果では、モディ首相率いるBJPが単独政権の樹立に必要な272議席を獲得できなかった。一方、国民会議派を中心とした20を超える政党から成る野党連合は、多くの重要選挙区で足掛かりを得た。BJPを軸とする与党連合「国民民主同盟(NDA)」は全体で過半数を確保したもようだが、BJP単独では過半数に届かず、連立政権を運営しなければならなくなる。
出口調査では与党連合の圧勝が予想されていたため、今回の選挙は衝撃的な結果となったが、ここ数週間の報道では、与党がウッタルプラデシュ州などの牙城で支持を失っている可能性も指摘されていた。
今後の展開は
BJPは単独過半数を失うが、モディ首相は続投する考えを表明。インドの議会制度では、一つの政党が過半数を獲得できなかった場合、最多得票政党が連立政権の樹立を目指す。与党連合は多くのパートナーで構成されており、忠誠心には違いもある。
モディ首相が続投で十分な支持を得られなければ、別の指導者を求めたり、野党陣営にくら替えしたりする動きが出て、リーダーシップに疑問符が付く可能性もある。だが、そうしたことが起きることを示す兆候は現時点で見られない。インド独立後の歴史の大半では連立政権が主流であり、こうした政権は1990年代前半のインド経済の開放など、注目に値する実績を生み出したとも評価されている。
モディ首相とBJPにとっての誤算とは
BJPの選挙キャンペーンは、ヒンズー至上主義的な公約の実現とモディ氏個人のブランドに大きく依存していた。インド経済が急成長しているにもかかわらず、その恩恵が全ての人に均等に行き渡っていないことを懸念する有権者から、十分な支持を集めることができなかった。
調査によると、若者を中心とした高い失業率や生活コスト上昇などが有権者にとって大きな問題となっていた。盛り返しのきっかけをつかんだ野党連合は、こうした問題を取り上げ、与党には不利に働いた。
一方、BJPが与党連合で400議席獲得という過度に野心的な目標を掲げたことが裏目に出たと指摘するアナリストもいる。一部支持者の足が遠のいたほか、圧倒的過半数をてこに、与党が一部少数民族に対する格差是正措置の削減に動くのではないかとの懸念を招いたとの分析だ。
インドにとっての意味合いとは
BJPの与党連合パートナーの多くは、同党のアジェンダの中心であるヒンズー寄りの見解を共有しているわけではない。つまり、BJPは強いレトリックを控えるとともに、インドをあからさまなヒンズー国家へと積極的につくり変えるという野心を棚上げせざるを得なくなる可能性がある。
また、BJPは連立パートナーに閣僚ポストや他の譲歩を余儀なくされるかもしれない。経済面では、BJP主導の政権が引き続きビジネス寄りの政策を追求するとみられるが、国民からの負託は弱まっているため、エコノミストらが成長維持に必要だと指摘する労働・土地規制を巡る改革の断行は難航する恐れがある。BJPの連立政権は支持率回復のため、ポピュリスト的な財政支出策に動き、財政プランが脅かされる可能性もある。
世界にとっての意味合いとは
モディ政権下で8%を超える力強い経済成長と、若者を中心とする人口増を背景に、世界の舞台におけるインドの立場は大きく向上した。モディ首相は、インドを中国への重要な対抗軸と見なす米国とのパートナーシップの深化を図る一方、ウクライナ侵攻を巡りロシアを非難する西側諸国に加わらなかったり、ロシア産原油の輸入を続けたりする「戦略的自律」を維持している。
アナリストらは、インドのこうした立場がすぐに変わるとはみていない。中国経済が減速する中、インドを世界的な製造業の拠点とし、次の成長ストーリーを求める外国の投資家を呼び込み続けるというモディ氏の野心も同じだ。
原題: What Went Wrong for Modi in India’s Election?: QuickTake(抜粋)
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