ロシアのプーチン大統領は2022年2月の中国訪問で習近平国家主席から「限界のない」パートナーシップという約束を取り付けた。
プーチン氏はそれから1カ月を経ずして、ウクライナへの武力侵攻を開始。今や中国の経済支援と自ら招いた政治的孤立からの脱却を必要としている同氏は17日、再び北京に戻った。習氏が進める巨大経済圏構想「一帯一路」の国際会議が北京で同日開幕する。
両首脳の会談が、パレスチナ自治区ガザを実効支配しているイスラム組織ハマスとイスラエルの紛争の陰に隠れることは避けられそうもない。
米国と欧州連合(EU)はハマスをテロ組織に指定。ブリンケン米国務長官は中国に対し、ハマスを支援するイランとの友好的な関係や中東における影響力を生かし、紛争の拡大を防ぐよう求めた。習氏、そしてイランに接近しているプーチン氏への圧力は一段と強まっている。
対中依存
ウクライナ侵攻開始から1年8カ月がたち、ロシアの対中依存は経済のあらゆる面に及んでいる。今のところ、プーチン、習両氏は首脳会談で2国間関係の強化に焦点を絞ると予想されている。
西側諸国がロシアとの貿易関係を断つ中で、中国の対ロシア輸出は今年57%急増。ブルームバーグ・エコノミクス(BE)がまとめたデータによると、モスクワでの外国為替取引額で人民元が占める割合は22年1月のわずか0.4%から今年9月時点で半分近くに増えた。中国は現在、ロシア産化石燃料最大の輸入国だ。
プーチン氏にとって、今回の訪中は国際刑事裁判所(ICC)から戦争犯罪容疑で 逮捕状が出されて以後、旧ソ連圏訪問を除けば初めての外遊となる。ロシアは中国からの経済支援を確固たるものにし、中国政府に新しいガスパイプラインに関する協定に調印するよう働きかけたい考えだ。
習氏としては、新たな世界秩序のビジョンを構築する上で強力なパートナーとなる信頼に足るロシアを必要としている。それは、西側諸国、特に米国とその同盟国に対する長きにわたる不信と、台湾を巡る中国の立場を強めたいという願いに基づくものだ。中国が領土の一部と見なす台湾に米国は支援を約束している。
習氏にとって、プーチン氏は重要な一翼を担う。すぐにはあり得ないだろうが、実際にもし中国が台湾に侵攻するようなことがあれば、ロシアは食料や燃料の供給を確保し、国連安全保障理事会で政治的な援護をする可能性がある。
重荷
だが、中国とロシアの間には不穏な雰囲気も漂う。中国がロシアとの関係で得ているのは一定の自動車・テレビ・スマートフォン市場と、値引きされたロシア産石油・ガスを除けばほとんどないと北京の一部専門家や学者は分析。このため、プーチン氏に賭けるギャンブルの度が過ぎるのではないかという疑念も浮上している。
ワルシャワのヤクブ・ヤコボフスキ東方研究センター副所長は「習氏にとってプーチン氏は理想的なパートナーではないと思う。習氏はもっと大きなことを望んでいた」と指摘。ロシアが始めた戦争に関与したくない「中国エリート層の一部からすれば、プーチン氏は習氏にとって一段と重荷になっている」と述べた。
中国共産党の総書記でもある習氏は、国内でもっと差し迫った問題を抱えている。経済成長の減速で社会不安が増大する可能性が高まっているほか、ここ数カ月で外相と国防相を事実上更迭したもようだ。中国の核兵器を管理するロケット軍の幹部も刷新された。
米国は先端技術の対中輸出規制を強化し、EUは中国から輸入している電気自動車(EV)の補助金調査に着手した。EUの行政執行機関である欧州委員会のドムブロフスキス上級副委員長(通商担当)はウクライナに対する中国の姿勢が、EUの対中投資意欲を減退させていると警告している。
マレーシアのマラヤ大学で中国研究所所長を務め、中国政治について多くの著書があるヌゲオウ・チャウ・ビン氏は「中国とロシアが同じカテゴリーに分類され続ける限り、欧米などとの橋渡し役」になれないことを中国政府は憂慮しているとし、「中国はどちらの側からも頼れる存在として自らをアピールしたいと考えている」との見方を示した。
プーチン氏は習氏が13年に中国国家主席に就任した後、初めて訪中した外国首脳だ。その後10年間、両首脳は親密な関係にあるとしばしば言われてきた。19年にはタジキスタンで習氏の誕生日を共に祝った。
プーチン、習両氏が最後にモスクワで会ったのは、ICCがプーチン氏に逮捕状を出した数日後の今年3月だった。ロシアのテレビで今週放送されたインタビューで、プーチン氏は習氏との関係について、「もしわれわれが何かに合意すれば、双方が互いの責任を果たすと確信できる」と語った。
抗争
しかし、欧州を拠点とするある外交官は、2人の関係性には同志間の抗争のような側面もあると主張する。
両国の関係はしばしば緊張し、時には公然と敵対してきた。1969年の国境紛争では、当時のソ連が中国に対して核兵器の使用をちらつかせた。EU担当の中国外交官だった王義桅・中国人民大学国際事務研究所所長によれば、この「核の脅し」がウクライナに対する同じようなロシアの威嚇に中国が反対する理由の一つだという。
中国政府にとってもう一つの「レッドライン」は、国連憲章にうたわれている領土主権の原則だ。中国は台湾を巡る自国の見解を強化しようと常にこの原則に触れている。習氏はまた、北大西洋条約機構(NATO)拡大に対するプーチン氏の懸念を共有しているように見える。だが、それは全面的なロシア支持を示すものではない。
親モスクワ派は「ロシアの領土奪取を支持している」のではなく、「西側の覇権に対抗するロシアの行動を評価している」のだと王氏は言う。「多くの人々がロシアを嫌い、ロシアを批判している」とも話した。
両国間で緊張が生じている分野の一つが、習氏肝いりの一帯一路だ。中国は1兆ドル(約150兆円)規模のこのプロジェクトを通じ影響力拡大を図っており、ロシアの裏庭である中央アジアに足を踏み入れている。
今のところ、ロシアは対中関係の不均衡についてほとんど何もできない。BEのロシア担当エコノミスト、アレクサンダー・イサコフ氏によると、「ロシア政府は国内経済を維持するため中国の協力をしかたなく必要としている」という。
ロシアの製造業は長期的には中国からの投資が必要だ。自動車産業のような分野では、欧米企業の撤退で生じた空白を埋めるため支援を得なければならず、ロシアにある乗用車工場14カ所のうち、稼働しているのはわずか8工場だ。
BEの分析によれば、中国の小規模な自動車メーカーはすでにロシアで生産を行っているが、生産台数を22年の45万1000台からウクライナ侵攻前の約140万台に戻すには、さらに大手2、3社がロシアに組み立てラインを設置することが求められる。
人民元
世界の外貨準備高のわずか3%しかない人民元の国際化は、世界の金融システムにおける米国の支配に挑む中国政府にとって、一つの戦線と見なされている。
ロシア輸出決済での人民元の使用は、ウクライナ侵攻前のゼロから今年8月には29%に達し、輸入での人民元使用は4%から38%に増加した。
ただ、米スティムソン・センターのシニアフェローで東アジアプログラム共同ディレクターを務めるユン・スン氏は、中国は自国の優位性を強く押し出すことはできないと説明。
「ロシアが今陥っている戦略的な窮地が永遠に続くわけではない。中国政府にとっての焦点はロシアがどれだけ譲歩する用意があるかということでは必ずしもない。中国がどのようなコストを背負う必要があるかが問題だ」と語った。
原題: Xi’s Diplomatic Gamble on Putin Leaves Both With Much to Lose (抜粋)
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