さいたま市中心部から車で北西に1時間余り。山に囲まれた埼玉県ときがわ町を南北に走る県道30号を行くと、思いがけない看板に出くわす。
「青い森の風 後引く美味(おい)しさ 青森のソウルフード」。そう書かれた赤い文字の下に、味噌(みそ)カレー牛乳ラーメン、十和田バラ焼き丼、黒石焼きそばスペシャルの写真が並ぶ。
青森から500キロ以上離れた場所になぜ、これほど「青森推し」の店があるのか。きっかけは、認知症だった店主の母の「勘違い」だった。
その店「あすなろ食堂」の店主は三浦清司さん(75)。青森県十和田市生まれで、子どものころに一家で上京。大学卒業後は、土木や金属機器関連の仕事に携わってきた。
学生時代に父は他界。母のミツエさんは清司さんら兄弟が大学を卒業したあと三沢市に戻り、整体の治療院を開業した。声がかかれば、どこにでも出向いて施術する活発な人だった。
認知症になった母、施設探しの末に…
ところが20年余り前、80代に入るころから様子が変わりだした。物忘れが目立ち、感情の起伏も激しい。認知症と診断された。
三浦さんは母を案じて時折、埼玉県東松山市の自宅に連れ帰った。だが、そのたびに「こんな所にいたくない」と怒り、三浦さんがいない時を見計らって青森に帰ってしまう。
症状が進むなか、青森に帰る途中に一時行方不明になることもあった。「埼玉で福祉施設に入ってもらうしかない」と思った。
しかし、母と一緒に埼玉県内の施設を巡っても、「嫌だ」と首を横に振るばかり。諦めかけていたところで、自宅近くのときがわ町にあるグループホームを紹介された。
「これで最後。だめなら妻を残して、自分も青森に戻ろう」。そう決めて、母を車に乗せた。
走ること30分。母は眠ってしまった。
山の中で起きた「不思議な出来事」
施設は山あいにある山小屋風の建物だった。「着いたよ」と声をかけると、目を開いた母は、「青森に着いたの?」と尋ねた。山に囲まれた景色を見て勘違いしたようだった。
「清司ありがとうね。私のた…
からの記事と詳細 ( 認知症の母を信じさせた息子の「うそ」 勘違いから始まった恩返し:朝日新聞デジタル - 朝日新聞デジタル )
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