24日夜、都内の東京メトロ南北線・白金高輪駅構内で、男が硫酸とみられる液体を男女2人にかけて逃走した事件を受け、元神奈川県警刑事で犯罪ジャーナリストの小川泰平氏は25日、当サイトの取材に対し、「被害男性を狙った計画的な犯行だが、被害者側は犯人を知らなかった可能性もある」と推測した。
4日午後9時10分ごろ、白金高輪駅構内で「薬品をかけられた」と東京消防庁に通報があった。同庁などによると、駅構内で男性会社員(22)と女性会社員(34)が硫酸とみられる液体をかけられるなどした。警視庁によると、男性は顔や肩をやけどした重傷で、女性は液体を踏んで転倒して足にやけどを負う軽傷。液体をかけたとみられる男は逃走し、警視庁が傷害事件とみて防犯カメラに写った画像を公開し、行方を追っている。男は30~50代ぐらいで身長約175センチの小太り。上下黒の服を着用し、帽子にマスク姿だった。
事件から一夜明け、現場を取材した小川氏は「地上に出るエスカレーターより、もう1本下にあるエスカレーターが事件現場になります。犯人は改札から被害者となった男性を尾行し、エスカレーターで距離を詰めて後ろに立ち、追い抜きざまに硫酸を相手の顔にかけました。私は現場で確認しましたが、エスカレーターの支柱部分や床の塗装がはげるなど、まだ硫酸の痕跡がありました」と報告した。
その上で、小川氏は「防犯カメラを見ると、犯人はショルダーバッグから瓶のようなもの、そこに硫酸が入っていたと思われますが、それを取り出し、しかも右手だけに手袋をしていた。準備はもちろん、計画性があるのは明らか。その場所で犯行に及ぼうしていたかどうかは分かりませんが、明らかに今回の男性被害者を狙った犯行だと思います」と解説した。
硫酸を「凶器」とした行為について、小川氏は「強い恨みがあったと思うが、殺害するほどの恨みはなかったと思われる。通常、殺意があれば鋭利な刃物を考えつくが、硫酸だった。私の記憶の中では、今から64年前の1957年1月、歌手の美空ひばりさんが女性から塩酸をかけられるという事件がありました。50代以上くらいの方は知っているかもしれませんが、若い方には薬品を顔にかけるという犯行のイメージがわかないかもしれません。入手も難しいですし、薄められていない原液に近い硫酸はメッキ工場や学校の研究室など限られた所にしかない」と付け加えた。
さらに、小川氏は「殺意はないまでも、強い犯行動機は認められる。被害者は犯人のことを知っていると思っていましたが、目が開けられない状態とはいえ、話はできるので、犯人について心当たりがあれば、警察が防犯カメラからの画像を早期に公開する必要はないわけです。名前が分かれば、その容疑者を追い、防犯カメラ等で裏付け捜査をして調べればいいわけですから。ところが、警察が写真を早い段階で公開したと言うことは、被害者男性も犯人について全く心当たりがない可能性もあると感じました」と指摘した。
犯人の心理について、小川氏は「相手の顔面に硫酸をかけていますから、顔に傷の跡を残してやろうという強い意志があったと思われる。たまたま、電車内やエスカレーターに乗る時にトラブルがあったわけではなく、以前から何か恨みがあって狙っていたと考えられる。硫酸や手袋をいつも持ち歩いているわけではない」と分析した。
一方、負傷した女性については「決して狙われたわけではなく、たまたまと近くにいた。私は現場で確認しましたが、2、3メートル、広範囲に液体が飛び散っているのが分かりました。ところどころはげていたので、そこで足を滑らしてのだと思います」と説明した。
今後の捜査について、同氏は「警視庁にはSSBC(捜査支援分析センター)という防犯カメラの映像を基に追跡し容疑者を割り出すエキスパートの集団がありますから、そこでも捜査は続いています。また、公開された1枚の写真は目の部分がはっきり写っている。それを見ると、知人なら誰か分かるかなと思われるので、情報提供を呼びかける意味でも公開を早めたのだと思います」と補足した。
こうした犯罪に巻き込まれる可能性を減らす対策として、小川氏は「スマホを見ながらとか、音楽を聴きながら歩くと、付近に異変か起きた時に気づかないので危険性が高まる。『ながら歩き』はやめて、自宅でゆっくり見るなり、聴くなりしてください」と呼びかけた。
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