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Tuesday, May 18, 2021

入管法改正案騒動で浮き彫りになる日本人の人権意識 スリランカ女性の死が問い掛けるもの:時事ドットコム - 時事通信

世界に類を見ない厳しい難民政策

 難民認定手続き中の外国人でも、申請回数が3回以上になったら強制送還できるようにする入管難民法改正案が与野党の激しい攻防の末、今国会での採決が見送られることになった。入管施設に収容されていたスリランカ人女性が死亡したことをきっかけに改正案への批判が高まっていた。今回の入管法の問題点と日本人の外国人への“視線”について、「『低度』外国人材 移民焼き畑国家、日本」(角川書店)などの著書で在留外国人問題を追い続けてきたルポライターの安田峰俊さんに寄稿してもらった。

◇ ◇ ◇

 在留資格のない外国人(不法滞在者)の帰国を徹底させる内容の、出入国管理及び難民認定法(入管法)の改正案が国会で審議されていたが、政府が法案を取り下げることになった。もともと政府は改正案を提出した理由に関して「オーバーステイなどで国外退去処分を受けた外国人の送還拒否が相次ぎ、入管施設での収容長期化につながっている」と指摘、今回の改正案はその解消を目指したもの位置付けられていた。

 もっとも、ひとくちに「不法滞在者」と言っても、彼らが入管法違反以外の犯罪行為やテロリズムなどと必ずしも親和性が高い人たちであるとは限らない。送還を拒む外国人のなかには、母国において政治や宗教を理由とした迫害を受けて日本にたどり着いた事実上の難民や、すでに日本で長年暮らしていて家族や生活基盤を日本国内で築いてしまっている「いまさら戻れない」人も少なからず含まれている。

 日本の入管の収容措置は、入管施設内で非人道的な対応が常態化しているとされることや、収容の長期化によって入管施設内で死亡する外国人が相次いでいることがしばしば問題視されてきた。特に2021年3月、名古屋出入国在留管理局に収容されていた当時33歳のスリランカ人女性、ウィシュマ・サンダマリさんが死亡した事件は、ちょうど入管法改正案問題が注目されているなかでの事件だったこともあり注目を集めた。報道によればウィシュマさんは、収容中に体調悪化を訴えて入院や点滴を求めており、また医師からもそうした指示があったものの入管側が許可せず、やがて死亡に至ったとされている。

 入管法改正案についても、人権上の問題が多いとして一部で強い批判の声が上がっている。主要な議論の対象として指摘されるのは、(1)難民申請中は送還を受けない現在の仕組みを改め、3回目以降の難民申請者を送還対象にしていること、(2)逃亡の恐れがないと入管が認めた不法滞在者に対して、弁護士や支援者の監督を受けながら施設外で暮らすことを認める「監理措置」が設けられること、(3)ウィシュマさんの死亡事件に象徴されるような、従来の不透明な収容手続きのあり方(収容について裁判所の関与がなく、収容期間の上限もない)が見直されなかったこと―以上の3点だ。

 入管庁は目下、母国への送還を免れるために難民申請を繰り返す不法滞在者(偽装難民)の存在が、入管施設で長期収容が行われがちな一因だとみなしている。今回、同じ内容の難民申請を3回行えば強制送還できるとする法改正が試みられている背景にも、入管庁のこうした認識があるとみられる。

 だが、日本の難民政策は世界的に見ても厳しいことで知られる。たとえば2019年、難民申請を行った外国人は1万375人に上ったが、実際に認められた事例はわずか44人で、認定率は0.4%にすぎなかった。難民には認定できないものの国内滞在を認める「人道的配慮による在留許可者」もわずか37人だ(なお、2020年には申請者3936人に対して、難民認定47人、特別在留許可者が44人と認定率が大幅に改善されたが、これは新型コロナウイルスの流行にともなって外国人の入国者自体が激減したことが関係しているとみられる)。

 今回の日本の入管法改正案と同じく、難民申請を複数回行った不法滞在者を強制送還の対象に含める措置はイギリスやフランスなど他国にも例があるという。だが、同じ2019年のイギリスの難民認定率は39.8%、フランスの場合は19%などとなっており、日本よりも大幅に高い(ほか、主要国の2019年難民認定率はアメリカ22.7%、ドイツ16%、カナダ51.2%、オーストラリア17.3%などとなっている)。

 現時点の日本の難民保護姿勢は、国際的な基準とのギャップが非常に大きく、これを改善しないまま強制送還の範囲を広げることは、事実上の難民が迫害のおそれがある母国に無理やり戻されてしまう懸念が生じかねない。

 入管法改正案にはただでさえ問題点が多かった。それが話題となるなかでウィシュマさんの死亡事件が起こったことで、事態は政治的な争点に変わった。従来、菅政権の支持率が下落傾向にあったにもかかわらず、コロナ対策や東京五輪開催の是非について批判の切れ味が鈍かった野党勢力やマスメディアにとって、入管法改正案問題は格好の政権攻撃の材料となった。結果的に法案が取り下げられたことで、野党は最近では珍しい金星を挙げた形だ。

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